Vasinal Novel

『TSおだんごちゃん』シリーズ

塵も積もれば山となり

「またな!」

 卒業式の日、僕と同じように卒業証書の筒を持ちながら、彼女は言った。
 そして、同じ大学で再会する。それは偶然でもなんでもなく、彼女が言っていた進学先に入れるよう、必死に勉強を重ねた結果だった。彼女は驚き、ストーカーと笑いながら肩を組もうとしてきた。身長差から肩を組めないことに文句を言ってくる彼女を笑い、友人として今も楽しく日々を送っている。



「うーん……」

 彼女の言う柔らかな笑みは、果たして彼女の前でできているのだろうか。賃貸の洗面台の前で、笑みの練習をしながら思う。
 結局、未だに恋愛感情を拭い去ることはできず、募る思いを吐き出しながら日々を生きている。燃えるゴミのカゴは罪の象徴だ。
 自室のゴミ箱エリアから目を逸らし、スマホに視線を落とす。開かれたメッセージアプリには、彼女から「今日の部屋呑みの開始時刻がもうすぐだ」と連絡がきていた。
 彼女は酒が好きな癖して弱いので、お持ち帰りを警戒して僕以外と呑んだことはないらしい。毎度晒される無防備な姿に対して何も思っていないと思われているのは甚だ心外だが、信頼されている証だと重く受け止めている。それを背いたら僕の人生は破綻一直線だ。そんな勇気がないことはわかっているのだろう。
 僕が酒に強すぎて、どれだけ呑んでも素面だからまず間違いが起きないのも要因の一つだと思う。部屋呑みのたびに、床で寝る彼女を客用布団に寝かし直しているし。
 ……致命的な間違いが起きないようにと買った箱は、このままお払い箱になりそうだ。

「そうだ、そろそろ支度しないと」

 今日は呑んだことがない日本酒を選んだ。普段はビールやチューハイが多いから、だいぶ贅沢だ。
 彼女は喜んでくれるだろうか。酔いの回った彼女の緩い表情を思い出して笑う。
 その笑顔は、どうしようもなく柔らかいものだった。