Vasinal Novel

『TSおだんごちゃん』シリーズ

想いの行先

 最近、俺はイライラしていた。
 学校の廊下で彼の前に立ちふさがり、周囲の視線が集まるのも構わず睨みつける。

「なぁ、今日こそ一緒に帰ろうぜ」
「あ、いや、今日はちょっと……」

 余所余所しく断る幼馴染の彼は、最近ずっとこの調子だ。近くに行くと少し離れ、椅子に座っているところに詰め寄ると明らかに狼狽する。前だったら柔らかく笑いながら応対していたというのに、今は顔を強張らせ、まるで恐れているように声を発する。

「なぁ、最近なんでそんななわけ?」
「え? そんなってどういう……」
「それだよそれ! 他人行儀すぎるだろ!」

 逃げようとする彼を阻むように、壁へ肘をぶつける。
 いいところに入ったのか痺れが走り、変な悲鳴が出た。

「だ、大丈夫……?」
「大丈夫だよぉ……」

 涙目になりかけながら肘をさする。心配する彼の顔は何故か赤い。
 気を取り直してゆっくりと肘を壁にあて、身を縮こませる彼に視線を向ける。

「やっぱり、この前のあれか?」

 どうしても明言したくなくて濁す。それでも通じるだろう。

「あれは何もなかった。俺から言えるのはそれだけだ」

 そう言うしかない。そんな曖昧な関係になって、もし破綻してしまったらどうするというのだ。彼以外に信じられるのは伯母くらいだ。たとえギクシャクしていても、彼がいなくなってしまう未来よりはずっといい。

「それから、人を腫れ物を触るみたいに扱うな! 結構傷つくんだぞ」

 身勝手かもしれないが、こちらの要望を押しつける。縮こまった姿勢の彼は、視線を壁に逃がしながら口をモゴモゴさせた。どうしても身長差があって聞こえづらい。昔だったらこちらのほうが高かったというのに、今や彼の妹と同じくらいだ。妹と同じノリで撫でてきて張っ倒したのが懐かしく感じる。

「聞こえない」
「あっ、ごめん。そう感じる……?」
「前まで遠慮なしに肩を叩いてきた人間が、今は触るだけで謝ってくるんだぞ」
「ごめん……」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだよ。いつも通り接することって、もう無理なのか?」

 彼を見上げ、問う。視線をこちらに向けた彼は頬を赤く染めると、視線を徐々に天井に向けながら呻いた。

「頑張る……」

 絞り出すような声は、暗に難しいことを示している。だけど今はそれでいい。頑張るという意思を示してもらっただけで充分だ。
 今はぎこちないかもしれない。その感情は拭いづらいものかもしれない。だけどいつか彼がまた柔らかな笑みを返してくれると信じるのは、わがままだろうか。