Vasinal Novel

『TSおだんごちゃん』シリーズ

砕け散った想い

「は?」

 僕の一世一代の告白は、失敗に終わろうとしていた。

「なんで……?」

 当惑の表情を浮かべた彼女は、数年ほど前まで『彼』だった。その当時から友達だった僕は、突如変貌した彼に奇異の視線を向ける周囲を意に介さず、休みの日や放課後に遊びに行っていたものだ。
 濃いピンク髪とピンクと緑のオッドアイを指して桜の妖精みたいだとからかって、本気でキレられたのは記憶に新しい。それでもすぐに笑い合えるくらいには、僕たちの間には確かな友情があった。

「なんで君が……?」

 言われ、いつ頃からそういう気持ちになっていたのか考える。しかしわからない。いつからか彼女となった彼の所作にウザさより可愛さが勝るようになり、それは熱を持って僕の胸に居座った。

「ねぇ、嘘だよね」

 冷めきった声に、彼女の顔を見る。
 感情の抜け落ちた顔で、彼女が問うた。

「ねぇ、そんなこと言わないよね?」

 その言葉に懇願の色も、悲嘆の色もない。
 これは確認だ。

「言わないよね」

 有無を言わせないような、薄ら寒くなる笑みを浮かべて、彼女は言う。
 彼女のために頷きたい気持ちと、我欲を通したい気持ちがせめぎ合う。気まずい沈黙が二人を包み……僕は頷いた。

「よかった。これからも仲良くしてね」

 ふ、と花咲くように笑う彼女を見て、可愛いなと思ってしまう。友人としては抱いてはいけない感情。消さなければならない。だが、果たして消せるものなのだろうか? 僕はこの感情を抱いたまま彼女を『彼』として見ることはできるのだろうか?
 答えは否だ。一度熱を持った以上、そうそう冷めるものではない。しかし、それを指差して「彼女と友人を続けていたのは間違いだった」とは思わない、思いたくない。
 僕は確かに友達でありたかったのだ。彼の一番の友達として、彼とバカみたいにゲームをして過ごしたかった。
 結局、僕は恋慕と友情の両方を手に取ろうとして、どちらも取りこぼしてしまった。砕け散ったそれは元に戻るわけもなく、愚か者はその破片を呆然と眺めることしか許されない。
――彼女の笑顔が、どこか愚か者を笑うように見えたのは、僕の気のせいだろう。