Vasinal Novel

『TSおだんごちゃん』シリーズ

TSおだんごちゃんボルダリングFF

「ん~~~~~~~~~~~~」

 フローリングの上に仰向けになりながら、見上げる先には色とりどりの人工の岩がコンクリの壁に貼り付いている。ボルダリングというやつだ。昔から趣味だったけど、ここ最近は事情があって離れていた。

「昔はあそこまで登れたんだけどなぁ」

 手を伸ばすのは、垂直の壁の上にある斜めの部分だ。今まではあそこから頂上まで頑張って目指すくらいはできていた。それが今はどうだろう。垂直の途中で力尽きて、手足をぶらんとさせながら無様にマットの上に降ろされている。

「う~~~~~ん…………」

 その原因である両腕を見る。視線を下に向けてお椀状に盛り上がるシャツを見る。二の腕を触れば以前は引き締まった筋肉は見る影もなくぷにぷにで、節くれ立っていた手指は柔らかそうに曲げ伸ばしされる。

「まさか、女の子になるとはなぁ~」

 幾度となく言った言葉をまたつぶやいて、掲げた手指を曲げ伸ばしする。思いきり手を握って力の弱さを自覚し、いまだに震える指を見ながら持久力の低さを痛感する。この様子じゃ、もう1回登るのは無理そうだ。
 ボルダリングジムにきたのは、ただただ体力とか諸々を昔に少しでも戻そうという悪あがきだ。50m走るのにも10秒以上かかるし、サッカーボールを蹴ろうとして空振って背中から地面に落ちたときは、恥ずかしすぎて死ぬかと思った。背中の痛みより周りの視線のほうがよっぽど痛い。
 ……思い出したら悲しくなってきた。あと、女の子になった途端に体育の選択教科をダンスに変えた体育教師は許さん。選択の自由というのを知らないのか。この身体、前に重いからバランスが死ぬほど取りづらいんだぞ。

「はぁ~……」

 このまま天井を見上げててもネガティブに過ごすだけで日が暮れそうだ。とりあえずもう1回チャレンジしてみよう。そうだそうしよう。
 起き上がろうとして腹筋に全然力が入らず、仕方なく横に寝転ぶようにして起き上がる。それだけで心がめげそうになる。震える足でなんとか立ち上がり、ゆっくりと壁へと歩き進んだ。額から未だ垂れ落ちる汗をシャツ襟で拭い、茶色の岩に足をかけた。同色の岩に手を伸ばし……あれ意外と腕が伸びない。とりあえず掴めたから足もかけて腕を伸ばして、いや手が届かない!

「えぇ~……」

 にっちもさっちもいかなくなって、手で虚空を掻きながら情けない声が出る。降りようにもこのタイミングで筋肉痛が絶好調だ。どうかこの情けないバカを殺してほしい。
 ――最終的にスタッフさんに助けてもらったものの、危ないことをしないと叱られて初心者コースに案内されてしまった。どうして……。