Vasinal Novel

Code Red

chapter1 対立国家

 昔、世界は一度滅びたらしい。あくまでお伽噺ではあるが、地上が荒廃して全ての資源が底を突き、動植物が絶滅に追い込まれたという。そして人類は創世の力を振るい、地上を元の形へと戻して『神国』という国家を作り上げたというものだ。これがお伽噺ではないと言われたら、私は耳を疑った後に大笑いするだろう。それぐらいには与太話だ。
 ともかく、現在の世界は動植物で溢れ、とても住みにくい世の中になった。海底資源や地下資源は掃いて捨てるほどあり、それを用いた工業技術も発達している。街という街は鬱蒼とした森林に覆われた地上ではなく、空中に建設された。先人たちは、森林を開拓するよりも先に技術を進歩させてしまったのだ。私からしてしまえば非効率極まりない。爆弾を数個落として焼き払ってしまえば、開拓なんてあっという間だというのに。
 話が逸れた。
 まぁ、前述の話をまとめると、世界は森林で溢れて暮らしにくくなったので、空に暮らし始めた。そういうことだ。そして、国家という共同体も生まれ始めていた。
 国家。この言葉を聞いて、過去の記録を見たことがある私は一つのフレーズを思い出す。
 戦争だ。国家という枠組み、そしてそれが持つ領土を巡って旧時代では数知れない戦争が行われてきた。核技術という最悪の戦争技術による戦争になりかけた小競り合いもあったし、国家が滅ぶのではないかと思うほどの爆撃合戦を繰り広げた戦争もある。
 ともあれ、国家に戦争は付き物だ。だから、この空中国家同士が戦争を起こすのも無理からぬことだろう。
 帝政を敷く空中国家と共和政を謳う空中国家。互いに名前はない。その立ち位置から、それぞれが帝国と共和国と名乗っている程度だ。
 ではここで、この世界の戦争を語る上で欠かせない要素も一つご紹介しよう。……アバンダンだ。
 え? わからない? それもそうか。わかっている方が頭おかしい。
 アバンダンというのは、言ってしまえば戦闘機械だ。それも自律型ではなく他律型の搭乗式。旧時代の人なら一度は憧れるロボットというやつに似ている。旧時代の戦闘機に似た空戦型。未だ見たことはないが、陸上を支配する四足獣に似た陸戦型。そして人型。長ったらしくなるから、詳しい話は脇に置くとしよう。
 では、これからの話は私が語らせてもらう。私のような物が語れるかは疑問なんだけど、付き合ってほしい。
 え? 誤字がある? 物ではなく者? あぁ、それは誤字ではなくてちゃんとあっている。ここで勘違いされないように前置きしておくけど。
 私、人権無いよ?



 曇り空を飛ぶ幾つもの影があった。旧時代の艦艇に似た飛行体。それは、旧時代の誰もが夢見た航空戦艦だ。しかしそれらは砲火を交え、明らかに敵対していた。ある戦艦には黒地に赤をまぶし、死神鎌と処刑刀を交差させた帝国の国旗が。ある戦艦には白地に緑の横線を三本入れ、鍬をデフォルメしたような模様を中央に冠した共和国の国旗がある。二つの国の戦艦は入り乱れ、それでも的確に敵に狙いを定める。
 その中を、他の航空戦艦とは明らかに見た目の異なる船艇が蛇のように走っていた。その船は私がいる艦であり、虎の子の武器を積んだ帝国の奥の手でもある。しかし、ここは戦場だ。戦力の出し惜しみなどしていては負けたときに立つ瀬がないし戦略的にもよろしくない。
 そんなわけで、私は戦闘準備を強いられていた。

「バルガー。支度をしろ」

 筋肉質な見た目をした司令官が手渡したのは、薄手でつやつやしたボディスーツ。それを受け取った私は、全ての服を脱いで全裸になる。そうしないと、このスーツは十分に機能を発揮できない。
 その脱衣を見ながら、今日も司令官は気持ち悪く笑っていた。

「やはり、毛がないというのはそそるものだ。ここに恥じらいがあれば最高だが、それは高望みというものだろうな。ふふ、支配欲が掻き立てられる」

 本当に気持ち悪いのだが、流石にもう慣れた。スーツに足を通し、腕も通す。チャックは後ろにあるから、そこは他の人にやってもらうしかない。

「お願いします」
「おう、わかっている」

 気持ち悪い笑みを浮かべた司令官が私の背後に歩み寄ってくる。
 そして予想通り、チャックをしめる前にスーツの中に手を突っ込んだ。その手は私の尻に固定され、揉みしだかれた。

「うむ。今日もいい触り心地だ。ちゃんと慰問はしているか?」
「はい。ただ、兵士たちはそろそろ新しい慰問者をと言っていました」
「そうかそうか。それは言い聞かせねばならんな。まぁ、励めよ」
「はい」

 私が頷くと、満足そうに鼻息を荒くして景気よく私の尻を叩いた。少し痛いが、これも慣れた。
 部屋を出て、廊下を歩く。遠くから砲火の音がする。周囲の目線は、そろそろ別の女のも見たいという本音が見え隠れしている。私を除いてこんな体のラインが出るボディスーツを着る人間がいないのだから当然か。周囲の飽きたような目線に晒されながら、艦内の操縦室に入った。
 少し前に、アバンダンは他律型の搭乗式と説明したと思う。しかし、私が操る新型のアバンダンは搭乗を必要としない。搭乗席もあるにはあるが、この身体の反応をアバンダンと共有するボディスーツ。そして視覚を共有するバイザーがあれば事足りる。
 操縦室に置いてあるバイザーかけ、インカムで艦橋に言葉を送る。

「新型の射出準備は完了していますか?」
《問題ありません、バルガー。共有化を行ってください》

 淡々としたクルーの応答を聞き、私はバイザーの柄にあるスイッチを押した。視界は無機質な操縦室から、さらに無機質なアバンダンのコンテナに変わる。

《射出します》

 クルーの言葉と同時に、風景が一気に後ろに吹っ飛んだ。明るさの激変で一瞬真っ白になった視界が次に映すのは、砲煙の黒と雲の白、そして炎上の赤だ。四方で咲く爆発の花を見ながら、私がいた艦が戦場の真ん中にいたことを理解する。

「司令官も無理をする……!」

 予想以上にあの司令官は戦闘馬鹿だったらしい。あるいは狂信者か。
 現状に思わず歯噛みしたところで、艦橋クルーから通信が入った。

《戦域離脱までは艦の守護を。離脱したら即座に戦域に戻り、戦闘活動をしてください》
「それでは共有化が切れてしまうと思いますが!」
《ご安心を。この艦は共有化が切れないギリギリの範囲で回遊します。機密が漏れることはありません》

 そんな心配をしてなんていないのに、クルーは勝手に解釈して淡々と告げる。
 訂正しよう。あの司令官は功名心しかない臆病者だ。
 心の中で悪態をついて腕を動かす。共有化された動きで、アバンダンは腰の銃器を掴んだ。引き抜いたそれを前に構え、迫りくる共和国のアバンダンに向かって撃ち放つ。銃弾は空戦型アバンダンの機首に当たり、錐揉み回転をしながら明後日の方向に吹っ飛んでいった。人型ではそうそうない滑らかな動きを見た敵軍がこちらを脅威と定めたのか、いくつかのアバンダンがこちらに突っ込んでくる。

「一人死んだ」

 空戦型アバンダンに銃弾を叩き込んで落とす。

「二人死んだ」

 人型アバンダンに、肩シールドの裏に取り付けられたグレネードランチャーを撃ち込んで爆発させる。

「三人死んだ」

 陸戦型アバンダンが陸上から撃ってきたミサイルを銃器で撃って誘爆させ、腰の焼夷榴弾を放り投げた。
 陸上のアバンダンがいた付近に炎と破片が降り注ぎ、それによってアバンダンは沈黙する。

「四人死んだ」
《戦域を離脱しました。これから正式に戦闘行動に移ってください》
「了解」

 弾倉を取り換え、残弾を補給する。バーニアを噴かせて戦域に戻ろうとしたとき――それは現れた。

感想を書く