Vasinal Novel

夜知掌編

夏夜空のしたり顔

イメージレスポンスは、あおいすずさんに描いていただいた浴衣のうちのこです。
https://skeb.jp/@Aoi_Suzu_/works/233

「おっそい! 僕をいつまで待たせるんだよ!」

 目の前で不機嫌さを全開にさせる少女を見て、思わず腕時計を見る。その長針は集合時刻の十五分前を指していて、つまりは遅刻でもなんでもなかった。
 抗議の声音でそう指摘すれば、彼女は巾着に入れていたスマホを取り出し、サッと顔を赤くする。

「いや、これはあれだ。僕のスマホが一時間ズレてたかも。うん、そう」

 狼狽えた声を上げる彼女に対して悪戯心が湧き、スマホの時刻調整を申し出ると、彼女は慌てて画面を数度タップする。

「あ~、直った直った! 直ったわ、ほらこれ!」

 彼女はスマホの画面を見せて、すぐに巾着にしまい込む。
 そしてこの話は打ち切りとばかりに、両手をスッと広げた。

「……何か言うことないか?」

 なんだろう。皆目見当もつかない。そのポーズに意味があるのだろうか。
 ……すしざんまい?

「ち~が~う~! 違うだろ!ゆ、か、た!」

 まるで猫が威嚇するように歯を剥き出しにした彼女は、強調する言葉に合わせて両手を上下に振った。
 そう言われて、彼女の上から下までを見る。トレードマークのポニーテールに花の髪飾りをあしらい、花火柄の白青の浴衣を着た彼女は、一見してクールな外見によく似合っている。そこに帯留めの可愛らしい結び方がアクセントになっていて、それだけ見れば非の打ち所がないように見える。
 ただ、一部どう考えても失敗している箇所があった。……浴衣は普通、寸胴体型に見えるようなのが理想じゃなかっただろうか。こう、何がとは言わないが非常に目がいく。
 失敗箇所は言及せずに彼女に伝えると、彼女は思わずといった風で笑みをこぼした。

「いひひっ、そっか……じゃなくて! 当然だろ!」

 自分で聞いておいてその言い草はなんだと問えば、彼女はついと視線を逸らす。そういうところも可愛げがあるのだが、今言うと長引きそうだ。
 ともかく、今日の目的は花火だ。まだ時間があるが、彼女の姿は人の視線を集めそうで、なるべく早く屋台の並びを抜ける必要があると決意した。
 そうして足を踏み出せば、花火客の喧騒が全身を包む。

「おい、前を歩くなよ。下駄だと追いつけないんだよ!」

 後ろから聞こえる彼女の声に、自然と足早になっていたことを自覚し、歩幅を狭めて彼女の左につく。なるべく左側にある屋台の列から彼女を見えないようにしながら、彼女と取り留めのない話をする。

「あ、たこ焼きある! あれ食べようぜ」

 彼女の提案で屋台に寄り、たこ焼きを一パック買う。店主の熱いから気を付けてという注意にもかかわらず彼女はすぐに口に放り込み、顔を上に向けて口を開けて耐える姿勢になっていた。アホ面と言うと、空いた手で腕を引っ叩かれる。

「あ、チョコバナナ! あれも食うか!」

 彼女の提案で、また屋台に寄る。それを口に含む彼女が妙に艶めかしくて、視線を逸らして歩く。
 そんな調子で、いくつもの屋台に寄った。そのたびに彼女の姿は視線を集め、どこか落ち着かない気持ちになる。彼女は黙っていればクールだし、口を開けば表情がよく変わる可愛さも持ち合わせている。トドメにスタイルがとてもいい。なぜこんな少女が身近にいて、気安く話しかけてくるのか。運命の神様に感謝すればいいのか恨めばいいのかわからない。
 そろそろ花火の時間になる。最後に買ったリンゴ飴を指揮棒のように振りながら、彼女はご機嫌そうだ。花火会場に近づくにつれて人混みの密度は増し、もっと近づかなければはぐれてしまうかもと思うくらいになってきた。
 そのとき、ふと横から彼女が声をかけてくる。

「なぁ」

 彼女は、右手にリンゴ飴を持ったまま、右手の腕に巾着を引っかけている。
 そして、空いた左手を手招きするように指を曲げて、こちらに差し出すようにした。

「左手、空いてるんだけど?」

 そのとき、花火の光が夜空に閃き、彼女の顔を照らした。
 まるでこれからイタズラしてやろうというような、そんな笑み。こちらが慌てる姿を見てからかおうとする意図が見え見えで、それでもはぐれないようにという最低限の建前はあるズルい手だ。
 どうせそんな勇気はないんだろ。そう言われている気がして。その余裕を崩してやろうと、彼女の柔らかな手を取った。
 

本当はイメージレスポンスの続きになるイラストも絡めたかったんですが、長くなりそうなのでやめました。
試運転の向きもあるので短めで。

イラストを見た時に、「なんか左手の仕草が手を繋ごうとしてるみたいだなぁ」と思ったので、そういう解釈で書いています。
巾着は「スマホ入れるところないな」と勝手に生やしました。

うちのこは、
・見た目クール
・しゃべると悪友
・隙が多い
・押しに弱いので頼み込まれると断れない
・誘い受け
という、ザックリそんなノリの僕っ娘です。
僕かボクか悩んだんですけど、なんとなくこっちで。あとで変えるかもですけど。
書いていくうちに口調も少しずつ変わるかも。本当に試運転中です。

あと、Skeb依頼するときには活用されていない設定として、世界線移動ができる吸血鬼の末裔です。血が薄いので、くしゃみをすると世界線移動をし、元に戻っても経験を受け継ぎません。
そのため、設定上はファンタジー世界にいようがゾンビ世界にいようが、どんな状況どんな服装にもなれます。背丈も世界線が変われば自由自在です。……まぁ、色んなうちのこが見たいという理由でつけた設定ですが、そこまで変えまくると原型がなくならない? と思って活用されなくなりました。そして吸血鬼の末裔という設定が微かに残る要素として八重歯があったのですが、頼んでいるうちに私が忘れてました。
あ、なのでよそのこと絡ませやすいです。だからなんだという話ではありますが。

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