ミートボール研究会
肉団子に襲われる事件から数日が経った。
3日間の断食いちぎられによって所長はみるみる衰弱し、同時に所長の財布も少女の身の回り品購入によってみるみる痩せ細った。貢ぎ欲の発散による気力の充実と断食いちぎられの衰弱によって膨らんだり萎んだりする所長は、傍から見ていて気持ちが悪かった。
そうして今は日常が戻りつつある。時々たこ焼きを地域住民に提供し、日夜段ボールを片付け、毎日のように血痕の拭き掃除をする。そうした日々を少女の世話を癒やしに乗り切りながら、しかしずっと研究会の存在意義をはぐらかされながら過ごしていたある日、私はそれを見た。
「……あれ?」
長い廊下の、階段に一番近い一室。普段は固く閉ざされたそこが、開いている。外から見ると業務用冷凍庫のようだと思っていたが、隙間から覗く冷気はその予想を裏づけていた。
所長は出かけていて不在。あの子も定位置で丸くなって寝ていた。つまりこれは、この研究会について知ることができる絶好の機会だ。出来るだけ厚着をして、極寒の空気をこぼす部屋へと足を踏み入れる。
「さ、寒い……!!」
信じられないほど寒い。一体なんのためにこんなところがあるんだろう。電気代は大丈夫なのだろうか。
二言目には家計の心配をするようになってきたことに嫌気が差しながら、歩を進める。
部屋はさほど広くない。部屋の左側にすだれ状に黒いビニールがぶら下がっていて、こんなときじゃなければかくれんぼに使えただろうな、と思う。反対に、右側には謎の物体がいくつも転がっていた。
ピンク色の巨大な塊だった。表面は凸凹していて、差し色のように赤や白が混じっている。いびつな球形をしたそれは、形を整えれば成人男性くらいになりそうだ。
どこかで見たことがあるようことがある気がする。思い出そうと顎に手を当てて首をひねる。
「あ、そうだ。肉団子だ」
考えてみれば、茹でる前の肉団子にそっくりなのだ。そう考えると美味しそうに見えてきたが、そもそもこれは何に使うために置いてあるのだろう。床に無造作に置かれているのに肉団子として整形されているのは不可解だ。食べるためではなさそうだし、なんのためにあるのか。
試しに指先で触ってみると、冷凍庫の中でもなお凍らない粘つきが爪に絡みついた。思わず指を離すと同時に、その肉塊が少し傾く。
次いで、その肉塊に足が生えた。
「ひっ……!!!」
思わず後退り、ドアを確認する。重い金属製のそれは閉めるのに時間がかかるし、ここから所長の部屋に戻るまでには長い廊下がある。この早さならバレてしまうだろう。
一か八か、部屋の反対側にあったビニールの間に隠れる。その間にも肉塊は着実に人の形に近づき、最後には所長の姿へと変わった。
所長の形になった肉塊は、手を握ったり開いたりしながら準備運動のような仕草をする。
「相手の組織の刀遣い、意味がわからないくらい強かったな……。軍のお偉いさんに掛け合って何人か派遣してくれないかな……」
独り言を口にしながら、彼はドアの近くにある箱から着替えを取り出して身につけると、足早に部屋を出ていった。
しばらく私は現実を受け入れられずに、彼が出ていったドアを凝視していた。やがて寒さを思い出しドアから出て、地上に続く階段を見上げる。
ずっと、なぜたこ焼き屋の地下にミートボール研究会なんて名前のものがあるのか不思議だった。
しかし、今は理解した。ここは所長の肉塊研究会なんだ。